【特権】駐車違反も野放し 外交官は“無敵”なのか 訴追免除…不正後絶たず

在留関係証明書の不正発行を請け負っていたベトナム総領事館の男性領事(38)に賄賂を渡したとして、ベトナム人ブローカーの女が12月、不正競争防止法違反(外国公務員への贈賄)の疑いで兵庫県警に逮捕された。しかし、県警は領事本人へ捜査の手を伸ばすことはできなかった。立ちはだかったのは法の規定や外交の壁。過去に駐日ガーナ大使公邸を装った違法賭博店が警察の捜査を受けた際も、関与が疑われた大使は摘発を免れるなど、外交特権を隠れみのにした不正は後を絶たない。

 ■外交施設で闇カジノ

 警察の捜査が及ばない大使館で暴力団が闇カジノを営業し、駐日大使と収益を分配する−。平成22年公開の映画「アウトレイジ」の一幕だ。フィクションさながらの事件を26年、警視庁が実際に摘発した。

 バカラ賭博店を営業したとして日本人ら10人が逮捕されたが、舞台となったのは駐日ガーナ共和国大使公邸を装った東京都内の一室。大使本人も部屋が賭博に使用されると知りながら一室を貸した疑いが持たれたが、外交特権を持つ大使は刑事訴追を免れた。

 外交特権は1961(昭和36)年採択のウィーン条約に規定された。国家の独立性や外交使節団の任務遂行の保護などを目的に、外交官やその家族らが派遣先の国内法に違反しても逮捕されることはなく、課税も免除される。採択3年後の64年に日本も批准した。

 ■駐車違反も野放し

 在福岡ベトナム総領事館の男性領事に賄賂を渡したとして、兵庫県警が今月初めにベトナム人ブローカーの女を逮捕した事件では、領事はブローカー摘発の約半年前の7月に出国。そもそも収賄側を罰する法律上の規定が存在しないという事情はあったが、県警は男性領事から事情を聴くことさえできなかった。9月には韓国大使館の職員が暴行容疑で現行犯逮捕されたが、警視庁は条約に基づき釈放している。

 外交特権の“悪用”と指摘されかねないケースは、諸外国が大使館を置く東京都内で日常的に発生しているとされる。

 警察関係者によると、大使館員や領事館員らに交付される外交官ナンバーを取り付けた車両が、銀座や六本木といった繁華街で駐車違反を繰り返しているとされる。外交官でも違反金の支払いを求められるが、踏み倒したとしても刑事裁判にかけられたり、財産を差し押さえられたりすることはない。外交官ナンバーが絡む駐車違反の時効件数は年間で数千件に及ぶこともあるという。

 ■対抗手段あっても…

 国内法に違反したと疑われる外交官が特権を盾に捜査協力を拒んだ場合の対抗手段はある。相手国に「好ましくない人物(ペルソナ・ノン・グラータ)」を通告し、国外に退去させる、というものだ。

 殺人など重大事件への関与が疑われる場合、領事の個人宅であれば捜査当局は手続きを踏んだ上で立ち入ることはできる。ただ、外務省の担当者は「執行されたケースは聞いたことがない」と説明する。

 兵庫県警が今回摘発したような不正競争防止法違反事件で、収賄側に対する裏付けが求められるような局面では、日本の警察当局が外務省などを通じて相手国側に捜査協力を要請することもルール上は可能だ。しかし、国内で犯罪とされる事件が相手国も法令で犯罪と定めていることが大前提とされる。捜査関係者は「捜査協力を要請できるケースはまれ」とした上で、仮に相手国が捜査協力に応じたとしても「日本は捜査を緻密に行うため、各国に同じレベルを求めるのは難しい」と話す。

 それでも今回、ベトナム人ブローカーを摘発した意義はあった、と兵庫県警幹部は強調する。「賄賂を渡したとされるブローカーを立件すれば、日本の公判で収賄側の役割が明らかになる。今後の領事の入国を阻止することができるようになり、ベトナム側で独自に領事の責任を追及する可能性も出てくる」

1/5(日) 11:30配信
産経新聞
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200105-00000509-san-soci
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